The Cove and a Coward

邦題:私の牛がハンバーガーになるまで―牛肉と食文化
をめぐる、ある真実の物語

子どもたちがまだ学生だった頃、
家族4人で、夏は海へキャンプに行くのがお決まりでした。
いつも赤いフォレスターに乗って。
遠いけれと南紀の海は一番のお気に入り。

最後の旅では、那智勝浦まで足をのばし、
ひなびた混浴の湯につかりました。
硫黄が濃すぎてお気に入りの銀の指輪が赤茶けたのも
随分昔のことのような気がします。

畑仕事の度が過ぎて、節くれた指には
若いころの結婚指輪はもちろん、今はその銀の指輪もはまりません。
これはちょっとした自慢だと思っていますが…。

あの旅ではミーシャのアルバムが流れていました。
抜けるような夏の青空と高音の伸びはまさにベストマッチ。

串本海水浴場では、遠い遠い飛び込み台まで、
家族4人クロールで競争しました。
水泳部の娘が一番だったように思います。
寒くなって水に入れなくなり、泣き出した姉を
弟が連れて帰ったのも今ではいい思い出です。

その最後の旅の写真が詰まった2代目のデジカメはこわれてしまいました。

抜けるような青空と透き通った青い海、
読み取り不能なカメラの中に最後の思い出が封印されました。
あの、細長い入り江は、もうまぶたにしか映らない景色だと思っていました。
今までに見た一番きれいな海と、
その奥にある太地町のちいさな海水浴場。

映画  The Cove (入り江)が公開されるまでは。


 

この写真ではうまく伝わらないのですが、
この入り江はとても深く切れ込んでいます。
一番奥に海水浴場があり、
「くじら浜」と呼ばれています。

イルカ漁を避難したドキュメンタリー映画、
The Cove
はこの入り江が舞台になっています。

今、その漁の残酷さや、イルカを食べること、またはクジラを食べること
の可否を巻き込み、上映中止騒動などが起こっています。
映像はさぞや残酷なのだろうと思います。
この入り江がイルカの血で真っ赤に染まっていますから。

新聞の批評を見ると、
「映画の是非を語るためにも上映中止をしてはいけない。」という声が多いようです。
そうだと思います。

映画はイルカが賢く、おとなしく、愛らしい生き物であることと、
それを残酷に殺すシーンを強調しているようです。
私の神経ではとても見ることができないドキュメンタリーであることは想像に難くありません。
子供向けの怖い話をよんでも夜中に怖い夢にうなされる私ですから、
それが事実であればなおさら、逃げ場がありません。

私にぜひこの映画を見るよう勧めてくれた人は、
反対しつつもこの映画が完成することを実力行使で阻止しなかった
太地の漁師さんたち、日本人の冷静な反応、という点にも目をむけるべきだと言いました。
なるほど、そういう見方もあるわけです。

で、私は映画を見る勇気も無く、映画に関する色んな意見ばかりを読んでいます。

最低な臆病者です。

そのことを棚にあげて是非をまとめると、二つに集約されそうです。

映画の主張通り、一番賢く、おとなしく賢いイルカは食べるべきではない、という見方と、
そういう西欧人だって、命ある牛や豚などは平気で浴びるように食べているではないか、
という見方です。
食文化としてどう考えるか、という視点は別として、随分感情的な受け取り方です。
感情論に対しては、是も非もありません。
制作者の思いには深い敬意をもちますし、問題提議としては素晴らしいものかもしれませんが、感情で是非の結論を出すことは危険だと思います。

今日ブログの最初に紹介した本、

PORTRAIT OF A BURGER AS A YOUNG CALF

は、あるアメリカ人の記者が幼いころに感じた
「COW が BEEF になる不思議」を追ったノンフィクションです。
作者はマクドナルドで供される牛肉がどんな過程をたどるのかを知るため、
自分自身の子牛を手に入れるのです。

ペットではないので名前はNo7、 No8です。
けれど、訪ねて行った牧場で作者に近づき鼻を寄せる牛、
その黒くて無垢な瞳に愛情を感じないわけがありません。

すみません。
実は、その牛が食肉として処分されるのを読むのが怖くて、
まだこの本も読めずに飾っております。

最低な臆病者です。

今日、久しぶりに本を引っ張り出し、つまみ読みをしました。
それからアメリカの アマゾンのサイトで書評をチェックしました。

牛をめぐる産業の在り方を含め、偏見の無い視点で書かれていること、
「命あるものを食する」ということへの真摯さが深く訴えてくること、
などが高く評価されていました。
ほとんどが4、5星の高い評価なのに、2がありました。
あ、そういう理由で評価が低いのか、
じゃ、読んでみてもいいか..。
(ネタばれ防止のため、詳しくは書けません。)

つまみ読みした中には、乳がでなくなって 
beef(牛肉にする、という動詞) される乳牛もいました。
2日まえに自分をねぶった舌を「タン」にする場面もありました。
ぐっとくるところも多そうですが、日本のアマゾンで和書の評価を見ると、
知っておくべき事実が丁寧に書かれていることと、
物語としての面白さが高い評価をうけていました。

西欧人は肉を食べるくせに!
という意見に対しては、このように冷静に書かれた書物があることも紹介しておきたいと思います。
そして、この本を読んだ多くのひとがベジタリアンになったり、自分の食べ物について考えるようになったことも。

coward 
someone who is not brave enough to fight or do something difficult or dangerous that they should do
 
しなくてはいけないことに対して、闘ったり行動する勇気の無い人。

映画も見れず、本も読めない私はcowardです。
そんな私でも、食事の前には「いただきます。」と手を合わせたいと思います。

で、映画は見るの?
….。

本はぜひ読んでみようと思います。

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